ザンクトパウリからプレミアリーグへの抜擢
2024年夏、ブライトン&ホーヴ・アルビオンの指揮官に就任したファビアン・ヒュルツェラーは、欧州サッカー界で最も注目を集める若き指導者の一人だ。ドイツのザンクトパウリをブンデスリーガ2部優勝へと導いた手腕を買われ、ロベルト・デ・ゼルビの後任としてアメックス・スタジアムのベンチに座ることになった。就任当時、彼は31歳という若さであり、プレミアリーグ史上最年少の常勤監督として大きな話題を呼んだ。
ヒュルツェラーが率いるチームは、ドイツ時代から一貫して組織的なプレスと緻密な位置的優位性を重視するスタイルを採ってきた。ブライトンにおいても、前任者の築いたポゼッションの基盤を受け継ぎつつ、よりダイナミックでアグレッシブな要素を注入している。特にカモミール・ミトマ(三笘薫)のような卓越したウインカーをどのように活かすかという点において、彼の戦術的アプローチは毎試合のように論点となっている。
ハイインテンシティと連動したプレッシング
ヒュルツェラー戦術の最大の特徴の一つが、守備時における強烈なインテンシティである。ボールを失った瞬間の切り替えが非常に早く、前線の選手たちが連動して相手のパスコースを制限する。相手センターバックやアンカーに対して果敢にプレスをかけ、ビルドアップの芽を摘み取る姿は、現代のドイツ人指導者らしい徹底ぶりを見せる。
このアプローチは、単に走る量を増やすのではなく、ピッチをエリアごとに分割し、数的優位を作りながらボールを奪還する空間認識に基づいている。前線からの守備が機能することで、チーム全体がコンパクトな陣形を保ち続け、セカンドボールを回収しやすい状況を作り出す。プレミアリーグの強豪を相手にしても、このアグレッシブな姿勢を貫くことがヒュルツェラーの哲学の根底にある。
可変的なビルドアップとポジションの流動性
攻撃におけるヒュルツェラーのアプローチは、緻密なポジショニングの構築にある。後方からのビルドアップでは、相手のプレスをあえて引き付け、空いたスペースへ正確な縦パスを入れる形を好む。センターバックやアンカーが重要な役割を担い、数的優位を確保しながら前進を図る。
サイドにおいては、タッチライン際に張る選手とハーフスペースを突く選手を状況に応じて明確に使い分ける。三笘薫が左サイドで個人技を発揮する際も、周囲の選手がサポートポジションを的確に取ることで、孤立を防ぎつつゴール前への侵入ルートを複数作り出している。このように、個々の選手の特長を最大限に引き出しながら、組織としての規律を保つバランス感覚こそが、ヒュルツェラーの戦術を支える核心である。