新生エヴァートン、ヒル・ディッキンソンでの完璧な船出
エヴァートンは2026-27シーズンのプレミアリーグ開幕戦を、本拠地ヒル・ディッキンソン・スタジアムで迎えた。約51,820人の熱狂的な大観衆が詰めかける中、トフィーズ(エヴァートンの愛称)はクリスタル・パレスを2-0で下し、2021年以来となる最高のシーズンスタートを切った。今夏、長年チームを牽引したシーマス・コールマンからキャプテンの座を引き継いだジェームズ・タルコフスキにとって、この一戦は新主将として率いる初の公式戦であり、クラブにとっても新たな時代の幕開けを象徴する重要な一戦となった。
デビッド・モイーズ監督が送り出した先発メンバーには、大きな期待が寄せられていた。ミドルズブラから加入したヘイデン・ハックニーが守備的MFとしてプレミアリーグデビューを果たし、プレシーズンで強烈な印象を残したメルリン・レールが右サイドバックとして先発。さらに中盤にはキアナン・デューズバリー=ホールとハリス・アームストロング、前線にはティエルノ・バリー、イリマン・エンディアイエ、タイリーク・ジョージという若い力が顔を揃えた。移籍市場の閉幕を前に右サイドバックの補強が噂される中、既存の若手選手を信頼した指揮官の采配が、初戦から見事に機能することになる。
前半の苦境を耐え抜いたエヴァートンとパレスの逸機
試合は序盤から激しい攻防が繰り広げられた。開始わずか3分、アウェイのクリスタル・パレスが決定機を迎える。エディ・エンケティアの鋭いマイナスの折り返しに、ジャン=フィリップ・マテタがゴール前6ヤードの位置で反応したが、シュートは無情にもバーの上を越えた。エヴァートンもすかさず反撃し、活発な動きを見せるエンディアイエがレールからのパスを受けてエリア内から狙うも、パレスの守護神ディーン・ヘンダーソンの好セーブに阻まれた。
その後もパレスの攻勢は続く。アダム・ウォートンがディフェンスラインの背後にふわりと浮かしたパスにエンケティアが抜け出し、決定的な場面を迎えたが、エヴァートンが誇るイングランド代表GKジョーダン・ピックフォードが卓越したリフレックスを披露。指先でわずかに触れたボールはポストを叩き、失点を免れた。さらに前半終了間際にも、エンケティアのパスからマテタが再び6ヤードの距離から決定的なシュートを放ったが、これもまたポストに嫌われるなど、パレスにとっては決定力不足が響く展開となった。
エヴァートンも前半半ばにセットプレーからチャンスを掴み、ジャラッド・ブランスウェイトがエリア内でジェイディ・キャンボットに倒されてPKを獲得したかに見えた。しかし、長時間のVARチェックの結果、ビルドアップの段階でブランスウェイトがわずかにオフサイドポジションにいたとして判定は覆った。スタジアムに緊張感が漂う中、試合の均衡を破ったのはホームチームの「個の力」だった。
新加入デューズバリー=ホールとバリーの共演、そして若き才能たち
前半42分、待望の瞬間が訪れる。中盤でのルーズボールに対し、アームストロングがパレスの右サイドバックであるダニエル・ムニョスから見事なスライディングタックルでボールを奪取。このパスを受けたデューズバリー=ホールがエリア外の絶妙な位置から左足を一閃すると、鋭く曲がりながら落ちる弾道はゴール右上隅の死角へと突き刺さった。新体制の背番号8を背負う男のスーパーゴールに、スタジアムは狂喜乱舞に包まれた。
この先制点で勢いに乗ったエヴァートンは、後半開始早々の53分にリードを広げる。中盤でハックニーがファウルを受けて倒されると、すぐさまクイックリスタートを選択。ボールを受けたエンディアイエが右サイドから極上のカーブをかけたクロスを供給すると、ゴール前で圧倒的な高さを見せたバリーが打点の高いヘディングで合わせ、ネットを揺らした。この鮮やかな連係について、モイーズ監督は試合後に「1980年代のアンディ・グレイとケヴィン・シーディを彷彿とさせる素晴らしいゴールだった」と称賛を惜しまなかった。
守備陣もタルコフスキとブランスウェイトを中心に、パレスの強力なアタッカー陣を最後まで封じ込めた。プレミアリーグデビューを飾ったハックニーは、中盤の底でゲームを引き締め、守備の安定に大きく貢献。また、本職ではない右サイドバックで起用されたレールも、攻守にわたって粘り強いパフォーマンスを披露し、モイーズ監督の期待に応えた。
クリスタル・パレスの新たな挑戦と日本人コンビの共演
一方、敗れたクリスタル・パレスにとっても、この試合はピエール・サージュ新監督のもとで臨む新たな旅路の始まりだった。今夏、エヴァートンからパレスに移籍したドワイト・マクニールにとっては、古巣のファンからの大歓声とブーイングが入り混じる中での複雑な凱旋試合となった。マクニールは左サイドから活路を見出そうと奮闘したものの、エヴァートンの組織的な守備に苦しめられた。
この試合では日本のファンにとっても見どころの多い展開となった。パレスに移籍したばかりの鎌田大地はボランチの一角として先発フル出場を果たし、中盤でのゲームメイクを試みた。前半30分には激しいコンタクトプレイでイエローカードを受ける場面もあったが、随所に高い技術と戦術眼を示した。
さらに後半20分すぎ、パレスのDFチャディ・リアドが膝を痛めてプレー続行不可能になるアクシデントが発生。これを受けて後半27分、アヤックスから新加入した日本代表DF冨安健洋がピッチに送り出された。冨安は3バックの左CBに入り、実に686日ぶりとなるプレミアリーグ出場を果たした。新天地でのデビュー戦となった冨安は、限られた時間の中で落ち着いたラインコントロールと堅実な対人守備を見せ、鎌田との共演も含めて、今後のパレスにおける守備のマルチロールとしての重要性を示す一歩を踏み出した。
今後の見通し:デビッド・モイーズ体制の戦術的進化と展望
この2-0の勝利は、エヴァートンにとって単なる勝ち点3以上の価値を持つ。新オーナーシップのもと、新スタジアムでの最初の開幕戦を勝利で飾ったことは、クラブ全体に計り知れないポジティブなエネルギーをもたらすだろう。何よりも、モイーズ監督が限られたスカッドの中で若手を積極的に登用し、彼らがそれぞれの役割を全うしたことは、長いシーズンを戦い抜く上での大きな収穫となった。特に、昨季負傷に泣いたフォワード陣にあって、バリーが「頼れるストライカー」としての片鱗を示したことは、エヴァートンが悲願とする欧州カップ戦出場権争いに加わるための重要なピースとなるだろう。
敗れたクリスタル・パレスも、前半の決定機を活かしていれば異なる結果になっていた可能性は高い。サージュ監督の戦術的アプローチは機能しており、新加入の鎌田や冨安、そして古巣対決となったマクニールらがチームに完全にフィットすれば、昨季のFAカップ優勝やカンファレンスリーグ制覇という実績に恥じない強豪へと再び進化を遂げるはずだ。次節以降、両チームがどのように修正を加え、プレミアリーグの厳しい戦いを勝ち抜いていくのか、新シーズンの行方から目が離せない。